高齢の親と温泉へ。行く前に確認したい5つのこと
「親を連れて行きたいけれど、どこまで歩けるか心配で。」
「動けるうちに、一度連れて行きたい。でも何を準備すればいいのか分からなくて。」
そういう気持ちで調べている方が、たくさんいます。
旅行に行くかどうかを、体の心配だけで決めてしまうのはもったいないと、わたしは思っています。準備さえ整えれば、動けるところに行ける。その「整え方」を、今日は一緒に考えていきましょう。
その前に。「行きたい?」をまず親に聞く
確認ポイントの話をする前に、ひとつだけ。
お父さん・お母さん自身が、旅行に行きたいと思っているかどうかを、最初に確認してほしいんです。
子どもの側がどれだけ「連れて行きたい」と思っていても、本人が乗り気でないまま旅に出ると、どこかよそよそしくなります。「体が心配だから」と全部先回りされることを、うれしくない、と感じる方もいます。
「温泉、最近行ってみたいとか、ある?」
この一言を最初にかけるだけで、旅の空気が変わります。本人が「行きたい」と言ったなら、あとは一緒に準備を楽しめばいい。それがいちばんの出発点です。
① どのくらい歩けるか
まず確認したいのは、日常でどのくらい歩いているかです。
旅先では、駐車場から玄関まで、玄関からフロントまで、部屋から大浴場までと、知らないうちにけっこうな距離を歩いています。旅館やホテルは建物が広いことが多く、廊下が長い、エレベーターが遠い、ということも珍しくありません。
「ちょっと歩くとすぐ疲れる」「杖を使っている」という場合は、宿の構造を事前に確認することがとても大切になります。
電話で「部屋から大浴場まで何メートルくらいですか」と聞いてしまうのが一番確かです。「フロントが玄関のすぐ横にある」「エレベーターが部屋の近くにある」こういった情報は、ホームページには載っていないことが多いので、遠慮なく聞いてください。
② 段差と手すり(宿に電話で聞く項目)
温泉旅館は、歴史ある建物ほど段差が多いことがあります。玄関で靴を脱ぐ段差、廊下の段差、浴室前の段差。一段一段は小さくても、足腰に不安がある方にとっては積み重なって負担になります。
以下は、そのまま電話で使える質問文です。必要なものだけ選んで、読み上げてもらえれば大丈夫です。
📞 宿への電話で使える質問文(そのまま読んでOK)
「玄関からフロントまでの間に、段差はありますか?」
「部屋から大浴場まで、廊下や通路に段差はありますか? またエレベーターはありますか?」
「浴室の入り口や脱衣所に手すりはありますか?」
「洗い場に、高さのあるシャワーチェアや介護用の椅子はありますか? 背もたれはついていますか?」
「部屋のトイレに手すりはついていますか? また洋式トイレですか?」
「高齢の親と一緒に泊まります。体に不安がある場合、フロントに近い部屋や移動の少ない部屋をお願いすることはできますか?」
このくらい聞いても、失礼にはなりません。
③ トイレの近さと、部屋の位置
夜間のトイレが不安という方は、多いです。旅先でも同じで、夜中に暗い廊下を歩いてトイレに行くのは、転倒のリスクという面からも気になるところです。
確認しておくといいのは、
- 部屋にトイレがついているかどうか
- 洋式か和式か(和式は立ち座りが大変なことがある)
- トイレに手すりがあるか
の3点です。
洋式が増えていますが、古い旅館では和式が残っていることもあります。電話で確認しておくと安心です。
また、部屋の位置も大切な要素です。1階または大浴場・食事処に近い階の部屋をリクエストするだけで、移動の負担がかなり減ります。「フロントから遠い端の部屋しか空いていない」という場合は、別の日程や別の宿を検討することも選択肢のひとつです。
④ 湯船の深さ・またぎの高さ
温泉に来たからには、お風呂に入ってほしい。でも、足腰に不安があると湯船への出入りがひと仕事になることがあります。
わたし自身、いろいろな温泉に入ってきて気になるのは、またぎの高さよりも手すりが無いことのほうです。それと、床が滑りやすいこと。洗い場にシャワーチェア(背もたれのある、座面の高い椅子)を置いている宿もありますが、無いところも多くて、低い風呂椅子だけだと立ち座りがひと苦労になります。
大浴場が不安なときの、とても有効な選択肢が貸切風呂と部屋付きのお風呂です。
貸切風呂のいちばんの値打ちは、時間ではありません。付き添う人が、手を貸せることです。
大浴場は男女が分かれています。お父さんと娘さん、お母さんと息子さんという組み合わせだと、そもそも一緒に入れません。貸切なら、付き添う側は服を着たままで構いません。着替えのとき、濡れた床を歩くとき、湯船に入るとき——手を貸したいのは、たいていこの3つの場面です。そこに人がいるかどうかで、安心感がまるで変わります。
そして貸切なら、ひとりで入らずにすみます。
部屋付きのお風呂(部屋露天・内湯付きの部屋)なら、大浴場まで歩かずにすみます。体調に合わせて入りやすく、そばで見守りやすいのも大きな利点です。
「大浴場に入れないから温泉旅行は無理」ではなく、貸切や部屋付き風呂という選択肢があると知っておくだけで、旅の幅がずっと広がります。
⑤ 移動時間は短く、余白を多く
旅の計画を立てるとき、ついあれもこれもと詰め込みたくなります。でも、高齢の方と一緒の旅では、余白こそが旅の質を決めると思っています。
移動に疲れると、着いた先で楽しめなくなります。食事の前に疲れてしまうと、せっかくの料理も半分しか食べられない。そういうことが起きると、お互いに残念な気持ちになります。
最初の旅なら、移動時間はできるだけ短くするのがおすすめです。目安になるのは数字よりも、普段の外出で、どのくらい疲れる人かのほうです。「これなら少し余裕がある」と思える距離から始めてみてください。「近くて、宿がよくて、のんびりできる」を軸にすると、うまくいきやすいです。
それから、宿に着いてすぐお風呂に向かわないこと。温泉の注意書きにも、疲れているときは体を休めるように、と書かれています。移動のあとは部屋でお茶を一杯。荷物をほどいて、ひと息ついてからで十分間に合います。
観光地は、次の旅のお楽しみにしておけばいい。
宿に着いてから。お風呂で気をつけたいこと
宿の浴場の入口や脱衣所には、注意書きが掲示されています。書く中身は国が決めていて、高齢の方に関わることも並んでいます。旅先で慌てないように、要点だけ先にお伝えしますね。
- ひとりで入らない。高齢の方、お子さん、体の不自由な方は、ひとりでの入浴は避けることが望ましい、とされています
- 食事の直前・直後と、お酒を飲んだあとは避ける。旅館は夕食にお酒がつくので、ここがいちばん見落とされます
- 入る前にも、コップ一杯ほどの水分を。とくに朝いちばんのお風呂は、気づかないうちに体の水分が減っています
- 熱すぎるお湯は避ける。高齢の方、高血圧や心臓の病気がある方、脳卒中を経験した方は、42℃以上の熱いお湯を避けるように、とされています
- 入る時間は、はじめは3〜10分ほど。慣れてきたら15〜20分ほどまでが目安です
- 湯船から出るときは、ゆっくり。立ちくらみを起こさないように
- 上がったら、もう一杯。そのあとは体を冷やさないように着替えて、30分ほどゆっくり休めるとなおいいです
めまいがしたり、気分が悪くなったときは、我慢せずに近くの人へ声をかけてください。頭を低い位置に保ったままゆっくり湯船から出て、横になって落ち着くのを待ちます。
完璧な旅でなくていい
「もっと早く連れて行けばよかった」という声を、たまに聞くことがあります。
でも、今からでも遅くないです。
今の体の状態で行ける場所、今の体の状態でも楽しめる宿、それを探して行くことが、できることの全部です。完璧なコンディションを待っていたら、いつまでも旅に出られません。
一泊でいい。近場でいい。宿のお風呂にだけ入ってくればいい。
それで十分、「親孝行旅行」です。
まとめ
- どのくらい歩けるか:駐車場・玄関・部屋・大浴場の距離を把握する
- 段差と手すり:宿に電話で確認する。聞いて失礼はない
- トイレの近さと部屋の位置:洋式か・手すりがあるか・フロントに近いかを確認する
- 湯船のまたぎと深さ:大浴場が難しければ、貸切風呂・部屋付き風呂という選択肢がある
- 移動は短く・余白を多く:普段の外出を目安に、詰め込まない旅を計画する
持病や体調のことは、かかりつけの先生の指示が優先です。旅行前に「温泉に行っても大丈夫ですか」と一言確認しておくと、本人も家族も安心して出かけられます。
よくいただく質問
車いすや歩行器を使っていても、温泉旅行はできますか?
できるケースは多いです。ただ、宿によって対応がかなり違います。「車いすで入れる部屋や浴室がありますか」と、事前に直接宿に問い合わせるのがいちばん確かな方法です。もうひとつ、観光庁が「ユニバーサルツーリズムに関する相談窓口」の一覧を公開しています。地域によっては、その土地の宿や観光施設のバリアフリー情報について相談できます。宿探しの段階から聞けるので、近くに窓口があるか一度見てみる価値はあります。
バリアフリーと書いてある宿なら、何も聞かなくていいですか?
バリアフリーの内容は宿によって異なります。「段差なし」だけを指すこともあれば、浴室の手すりや貸切風呂の設備まで含む場合もあります。国の基準に加えて、自治体が独自の基準を設けていることもあり、宿の規模や建てられた時期によっても対応はさまざまです。表示だけで判断せず、「段差」「手すり」「浴室」「トイレ」など、自分たちに必要なものを一つずつ電話で確認するのが確実です。
宿に着いてから、体調が悪くなったらどうすればいいですか?
チェックイン時に「体に不安がある家族と一緒です」とフロントに伝えておくと、何かあったときに対応してもらいやすくなります。また、かかりつけの先生の連絡先と、普段飲んでいる薬のリストを手元に持っていくと、万が一のときに助かります。
食事は部屋食にしたほうがいいですか?
疲れているときや、大人数の食事処が苦手な場合は、部屋食のほうが落ち着いて食べられます。一方で、宿によっては食事処のほうが出来立ての料理を出しやすい、ということもあります。宿に「部屋食か食事処か選べますか」と聞いてみるのがおすすめです。どちらか一択でない場合も、相談すると融通が利くことがあります。
何泊くらいから始めるのがいいですか?
初めての旅なら、1泊2日がいちばん負担が少なくて計画しやすいです。移動の疲れが蓄積しにくく、体調を見ながら「もう少し遠くに行ってみようか」と次の旅に広げていけます。まずは近場の1泊から、が、うまくいきやすいです。