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温泉のぬるぬるはなぜ? pH11超えの白馬八方温泉

温泉のぬるぬるはなぜ? pH11超えの白馬八方温泉

昔の同僚に「あそこ、すごく良かったですよ」と言われて、名前を調べました。

水素。pH11を超える高アルカリ泉。ぬるぬるして、上がるとキュッキュする。

——それだけで、次に行く場所は決まりました。

実際に入ってみたら、本当にそうでした。湯の中では、指が肌の上をすべっていく。なのに上がってしばらくすると、今度は肌がキュッとつっぱる。同じ湯なのに、正反対のことが起きる。

あれは何だったのか。帰ってきてから調べて、やっと分かりました。今日はその話をします。


こまり
こまり
ねえとも。同じお湯なのに、反対のことが起きてるの?
とも
とも
いいところに気がつきましたね。反対に見えるんですが、じつはひとつのことの前半と後半なんです。
こまり
こまり
えっ、前半と後半!? ぜんぜん違う感じがするのに。
とも
とも
順番に見ていくと、すとんと落ちますよ。お湯で何が起きているか、それだけです。

手前に広がる深い緑の森と、幾重にも重なる山並み。奥には雲をまとった高い峰が連なり、上は青空

ぬるぬるとキュッキュは、同じ湯で起きる正反対のこと

まず、あの手ざわりを言葉にしておきます。

湯船につかって腕や足をなでると、石けんが残っているみたいに指がすべる。これが「ぬるぬる」「つるつる」と言われている感じです。

ところが上がって体をふいて、しばらくすると、今度は肌がキュッとつっぱる。「キュッキュする」「さっぱりしすぎる」と言う方もいます。

正反対のようですが、順番はいつもこの通りです。ぬるぬるが先で、キュッキュが後。逆になることは、まずありません。ここに答えのヒントがあります。

なぜ起きるのか ― 鍵は「pH(ペーハー)」という数字

温泉には、酸性のものとアルカリ性のものがあります。その度合いを表すのが pH(ペーハー)という数字です。

  • 7が真ん中(中性)
  • 7より小さいと酸性
  • 7より大きいとアルカリ性

ぬるぬるするのは、たいていアルカリ性が強い湯です。

わたしたちの肌の表面には、皮脂(ひし)という薄い油の膜があります。アルカリ性の湯につかると、この皮脂の一部が水になじみやすくなり、流れやすくなります

入っているあいだのぬるぬるは、これひとつで説明がつくものではありません。皮脂が流れやすくなること、アルカリ性の湯そのものの感触、肌の表面(角質)の変化——いくつかが重なって感じられていると考えられています。

白馬村の案内にも、こう書かれています。

強アルカリ性の温泉は、肌の表面の汚れや角質を落とすピーリング効果があり、お湯に浸かるとすぐに肌がすべすべになる実感があります。

ピーリングというのは、表面の古い角質を落とすことです。エステや化粧品でも使われる言葉ですね。あのぬるぬるは、それが今まさに起きているサインだ、と言い換えることもできます。

こまり
こまり
なるほど。じゃあ、あのぬるぬるはお湯じゃなくて、自分の体から出てるってこと?
とも
とも
そういう言い方ができます。お湯と肌の、ちょうど境目で起きていることなんですよ。

そして湯から上がると、皮脂の膜は薄くなっています。膜が減った肌は、水分が逃げやすくなります。そのときの手ざわりがキュッキュです。

ぬるぬるとキュッキュは、別々の現象ではありません。ひとつのことの、前半と後半なのです。

こまり
こまり
ふぅん。じゃあ、いちばんぬるぬるするお湯って、どんな感じなの?
とも
とも
そうですね……わたしが入った中で、いちばん強かった湯の話をしましょうか。数字でいうと pH11を超える 湯です。

pH11を超える湯 ― 白馬八方温泉 おびなたの湯(長野)

おびなたの湯の入口。「天然水素温泉 おびなたの湯」と書かれた木の看板と、板張りの通路、暖簾のかかった受付

初めて行ったのは2019年の10月。長野県の白馬にある「おびなたの湯」です。渓流沿いの露天風呂で、それからも何年かかけて足を運んでいます。

白馬八方温泉おびなたの湯の露天風呂。透明な青緑の湯と、湯が流れた跡が白く積もった巨大な一枚岩、葦簀と板塀

公式には「pH(ペーハー)11を超える高アルカリ泉」と紹介されています。泉質はアルカリ性単純温泉(アルカリ性低張性高温泉)。pH11を超える湯は、国内でもそう多くありません。

なぜここまで高くなるのか。白馬村の案内によると、この湯は八方尾根の「蛇紋岩(じゃもんがん)」の地層を通って湧き出しています。土地の岩の性質が、そのまま湯の性質になっている、ということです。

「アルカリ性単純温泉」の単純は、質が単純という意味ではありません。溶けている成分の量が一定より少ない、という分類の言葉です。成分は濃くないのに、pHだけがここまで高い。ぬるぬるの正体を考えるうえで、ここは押さえておくと分かりやすいところです。

湯船に入って驚いたのは、透明なのに青みがかった緑色に見えることでした。濁っているわけではありません。底の岩まで見えているのに、水の層そのものが薄く色をまとっている、という見え方です。

そして、岩が近い。湯船のすぐ横に巨大な一枚岩がせり出していて、手を伸ばせば届きます。その表面には、湯が流れた跡が白く積もっていました。何年も同じところを流れ続けた結果です。触るとざらりとしていて、これが湯から出てきたものなのだと分かります。

おびなたの湯の露天風呂。湯船のすぐ横にせり出した大きな一枚岩と、その上の石積みと板塀、背後に緑の山と青空

まわりは葦簀(よしず)と板塀。屋根がないので、山の空気がそのまま入ってきます。そして渓流の音。ずっと、絶えず聞こえています。

渓流のすぐ横に建つおびなたの湯の建物。壁に「天然水素温泉 おびなたの湯」の看板、足元を白い流れが走っている

じつは、湯に入る前から見とれていました。入口のところを流れている清流が、きれいすぎたんです。 底まで見えて、光が水の中で跳ねている。 思わず「これ、温泉のお湯も流れ込んでいるんじゃないか」と考えました。確かめたわけではありません。ただ、あの水を見たら、そう思いたくなります。

おびなたの湯のそばを流れる沢。両岸の草にはさまれた細い流れが、白くしぶきを立てて下っている

手ざわりは、これまで入ったどの湯とも違いました。すべる、というより、指が肌の上を通りすぎていく感じです。

なお、おびなたの湯は雪のない時期だけの営業です。白馬村の案内では、2026年は4月25日〜10月31日、時間は12:00〜18:00(受付終了17:30)となっています(期間・時間・料金は年によって変わります)。ほかの2か所が通年・10:00〜21:00で開いているのに対して、ここだけ期間も時間も短い。「行けば入れる」湯ではないので、日程を決める前に、その年の営業を確かめてください。わたし自身、コロナ禍のときは入れずに引き返しています。

裏を返せば、入れる時期の白馬はいちばんきれいな季節でもあります。山にはまだ雪が残っていて、足元は新緑。湯だけを目的にしなくても、行く価値のある時期です。

飲泉場がある

もうひとつ、覚えておくといいことがあります。

おびなたの湯には、水道のような飲泉場(いんせんじょう)があります。味は、ほんのり硫黄。

飲泉は、許可を受けた場所でだけ成り立つものです。どこの温泉でも飲めるわけではありませんし、飲めば何かがどうなる、という話でもありません。 利用のしかた(入浴した人だけなのか、立ち寄りでも飲めるのか)は場所ごとに決まりが違うので、現地の表示に従ってください

水素と、「デトックス」という言葉

この湯には、もうひとつ顔があります。水素です。

白馬村の案内では、八方の湯は「天然水素を含む露天風呂」、おびなたの湯は「天然水素泉」として紹介されています。現地でも「デトックス」といった言葉を見かけます。

この「デトックス」というのは、決まった意味のある医学の言葉ではないようです。「体から悪いものを出す」くらいの意味あいで、健康や美容の場面で広く使われている言い方です。何を、どれだけ出すことを指しているのかは、使う人によって違います。

水素で何がどうなるのかも、わたしには分かりません。ただ、そう名乗るだけの何かがある土地だなと面白がって、この湯には何度も足を運んでいます。効果を信じているというより、そういう感じ方に近い。

こまり
こまり
ねえとも、そんなによく落ちるお湯なら、長く入ったほうがいいんじゃないの?
とも
とも
こまり、そこがいちばん大事なところです。よく落ちるということは、落としすぎることもあるということなんですよ。

「よく落ちる」は、人によっては落としすぎになる

肌の皮脂は、少ないほうがいいものではありません。水分が逃げないように、ふたをしている膜でもあります。

もともと乾燥しやすい人、年齢を重ねて皮脂が減ってきている人ほど、長く入ればいいというものではありません

「温泉 肌 乾燥する」で調べる人が実際に多いのは、そういうことです。気持ちよかったのに、帰ってから肌がつっぱって困った。そう感じたのは、あなただけではありません。

かといって、あきらめて入らないでおく必要もありません。加減のしかたがあります。

  • 短めに上がる。5分から10分を目安に、一度出て休む
  • 連続で何度も入らない。1日に何度も入るより、朝と夕方くらいに分けるほうが、肌にはやさしいと言われます
  • 上がったあとに保湿する。日帰りの湯に乳液やクリームが置いてあることは、まずありません。小さいものをひとつ鞄に入れておけば足ります
  • 上がりぎわに真水で軽く流すという人もいます。合う合わないがあるので、一度試してみる程度に

湯そのものの入り方は、温泉の入り方、これだけ知っておけば恥をかきませんにまとめてあります。あわせて読んでいただくと、迷いが減ると思います。

同じ源泉を、何年かかけて回った

白馬八方温泉には、同じ源泉を使った日帰りの湯がいくつかあります。わたしは一度の旅でまとめて回ったのではなく、何年かに分けて入りました

最初の年は、おびなたの湯に入ったあと、みみずくの湯にも寄って、うどんを食べて帰りました。

白馬八方温泉みみずくの湯の外観。「みみずくの湯」と書かれた木の看板、入口へ上がるスロープと手すり たぬきうどん。透きとおったつゆに天かすと刻みねぎ、削り節がのっている

うどんは、みみずくの湯のとなりにある茶屋のもの。生地に白馬八方温泉の湯を練り込んでいるのだそうです。

次に行ったときは、コロナ禍でおびなたの湯が開いていません。かわりに八方の湯に入って、その日は引き返しました。それからまた何度か通って、あらためておびなたの湯に入っています。

入れなかった回があるから、次に入れたときの湯が濃くなる。そういう通い方をしています。

3か所は、それぞれこんな湯です。

  • おびなたの湯源泉にいちばん近い施設。渓流沿いの露天で、青緑の湯。ただし営業は雪のない時期の12:00〜18:00(受付終了17:30)だけ
  • 八方の湯いちばん大きい日帰り湯。天然水素を含む露天があり、浴槽から山並みが見える。通年10:00〜21:00で入りやすい
  • みみずくの湯:露天から八方尾根と白馬三山が見える。春は夜桜も。こちらも通年10:00〜21:00

はじめて行くなら、通年でやっている八方の湯かみみずくの湯が確実です。おびなたの湯は、時期と時間が合ったときの「ごほうび」くらいに考えておくと、行けなかったときにがっかりしません。

同じ源泉でも、建物も湯船の大きさも、まわりの空気も違うので、手ざわりの記憶がそれぞれ違って残ります。1泊するなら、2か所くらい回ってみるのも面白いと思います。

こまり
こまり
つまり、ぬるぬるは皮脂や角質が落ちやすくなってるサインで、キュッキュはそのあとの合図。落ちすぎちゃう人は、短めに上がって保湿する。……こう?
とも
とも
ぴったりです。それだけ分かっていれば、もう十分ですよ。

まとめ

ぬるぬるして、上がるとキュッキュする。あの手ざわりには、ちゃんと理由があります。pHという数字で説明がついて、自分の肌に合わせて加減もできる。

次に温泉に行ったら、脱衣所の掲示でpHの数字を探してみてください。あの手ざわりに、名前がつきます。名前がつくと、こわくなくなります。

なお、持病・体調のことは、かかりつけの先生の指示が優先です。気になることがあれば、出かける前に一度聞いておくと、安心して湯につかれます。


よくいただく質問

とも
とも
最後に、よく聞かれることをいくつか。

ぬるぬるする温泉は、肌にいいということですか?

起きているのは、皮脂や表面の角質が落ちやすくなることだと考えられています。そこから先は人によります。 心地よく感じる方もいれば、乾いてつらく感じる方もいる。合うかどうかは、その人の肌しだいです。

上がったあとにキュッキュするのは、洗い流しが足りないからですか?

いいえ、洗い方の問題ではないことがほとんどです。皮脂の膜が薄くなったサインだと思ってください。 気になるようなら、上がったあとに乳液やクリームを1回塗るだけでも、ずいぶん違います。

pHは、8.5と11でそんなに違うものですか?

はい、かなり違います。pHは桁で数える数字なので、1増えるごとに10倍うすくなります。8.5と11では、その差が200倍以上になります。 「アルカリ性温泉」とひとまとめに言っても、手ざわりはまるで別ものです。

pHの数字は、どこを見れば分かりますか?

たいていは脱衣所か浴室の入口に掲示されています。「温泉分析書」という細かい表の中にも書いてあります。 宿や日帰り湯の公式サイトに載っていることもあるので、出かける前に見ておくのもいいと思います。

乾燥しやすいのですが、アルカリ性の温泉はやめたほうがいいですか?

やめる必要はないと思います。入る時間を短くして、回数を分けるだけでも、感じ方はかなり変わります。 長くつかるより、短く出たり入ったりするほうが、体そのものへの負担も軽くなります。

飲泉場があれば、誰でも飲んでいいのですか?

飲めるのは、飲泉の許可が出ている場所だけです。湯船のお湯を飲むのとは別の話になります。 飲める場所には、たいていその旨の表示があります。表示がないところでは、飲まないでおきましょう。

🐾
とも 温泉好き

ぬる湯と源泉かけ流しが好きで、全国を旅しています。体のことも含めて書けるのが、このブログの取り柄です。

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